大判例

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福岡高等裁判所 平成4年(ネ)994号 判決

控訴人

医療法人S会

右代表者理事長

丙沢太郎

右訴訟代理人弁護士

三浦啓作

奥田邦夫

岩本智弘

鶴田哲朗

被控訴人

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

幸田雅弘

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

二  当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決書「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書二枚目表六行目から一二行目まで(事案の概要)を「本件は、被控訴人が、精神病者でも精神病質者でもないのに、精神衛生法(昭和二五年法律第一二三号、昭和六二年法律第九八号による改正前のもの、以下「精神衛生法」又は「法」という。)三三条所定の同意入院として、控訴人によって、控訴人の開設する精神病院に違法に入院させられたとして、控訴人に対し、損害賠償を求めた事案である。」と改める。

2  同一三行目の「丙一の一ないし一二」を「丙一の1ないし12」と、同末行の「被告乙川」を「原審での相被告乙川春子(以下「乙川」という。)」とそれぞれ改め、同行の「第一、二回」の次に「、弁論の全趣旨」を加え、同裏初行の「被告乙川春子」を「乙川」と、同四行目の「営業所」を「出張所」とそれぞれ改め、同行から五行目にかけての「昭和四九年ころ」の次に「退社し、昭和五一年一〇月には」を加え、同九行目の「被告乙川」を「乙川」と(以下、理由説示部分も含め、「被告乙川」とあるのをすべて「乙川」と改める。)、同行の「昭和五七年四月下旬ころから、」を「昭和五七年四月下旬ころ、四年ほど前から」と、同一〇行目の「被告医療法人」を「控訴人」と(以下、理由説示部分も含め、「被告医療法人」又は「同医療法人」とあるのをすべて「控訴人」と改める。)それぞれ改める。

3  同三枚目表初行の「同被告」を「乙川」と、同裏三行目及び同六行目の各「同被告」をいずれも「乙川」とそれぞれ改め、同七行目から同四枚目表三行目までを削る。

4  同五行目全部及び同六行目の「(被告病院)」をそれぞれ削り、同一三行目の「精神障害」を「精神障害者」と改める。

5  同五枚目表二行目、同七行目、同八行目の各「同被告」をいずれも「乙川」と、同裏末行の「被告病院」を「控訴人」とそれぞれ改める。

6  同六枚目表七行目の次に、行を改めて「病院の管理者自体は精神科の医師でなくてもかまわないことを考えると、病院の管理者が常に入院の必要性を判断しないと不法行為になるとの判断は余りに形式的であり、精神障害者保護、人権の尊重の観点からしても何の利益もない。本件では、三七年の精神科医歴があり、精神鑑定医の資格もあるベテランのN医師が院長代理として診察、診断した上、入院の必要性を認めて同意入院の措置を取ったものであって、このような場合、管理者が事後速やかに確認を行うこと等により、管理者自らの責任において同意入院の必要性にかかる最終的な認定が行われれば、法の趣旨に適った運用と言い得るもので、控訴人病院の管理者である丙沢太郎院長は、日報の記載によって入院患者の診断、同意入院の必要性を確認しているから、同法三三条には反していない。」を加え、同一三行目、同裏六行目、七行目の各「同被告」をいずれも「乙川」と改め、同行の次に、行を改めて「また、N医師は、乙川から事情聴取するに際し、同行してきたTを同席させているから、他の方法で情報の真偽を確認する必要はない。」を加え、同一一行目の「同医師は」を「同医師に」と改める。

7  同七枚目表三行目の「三」を「(三)」と改め、同一〇行目の次に、行を改めて「2 損害額」を加え、同一一行目から同裏末行までを削る。

三  当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本件請求を原判決が認容した限度で認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決書「事実及び理由」欄の「第三 本件同意入院の経緯等について」欄及び「第四 争点に対する判断」欄に各記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書八枚目表一一行目の「入院する」の前に「被控訴人は、」を加える。

2  同九枚目表四行目の「被告病院に」の前に「前記Tを伴って」を加え、同裏一二行目から一三行目にかけての「全てを願いする旨」を「全てお願いする旨」と改める。

3  同一一枚目表初行の「被告乙川は、」から同三行目の「到着した。」までを削る。

4  同一二枚目表五行目の「他の」の次に「十分な経験のある精神科の」を、同末行の次に、行を改めて「この点に関し、控訴人は、入院の必要性の判断についても病院の管理者が常に自ら行う必要はなく、一次的にはN医師のようなベテランの精神科医の判断に任せた上、管理者が事後速やかにその確認を行うなどの方法を取ることにより、入院の必要性につき管理者が最終的な認定を行えば同条違反にはならず、本件では、控訴人病院の管理者が日報の記載によって右必要性を確認している旨主張するが、仮に右主張を前提にしたとしても、控訴人病院の管理者が日報(それが具体的に何を指すか明らかではないが)の記載等によって本件における入院の必要性を確認したことを認めるに足る証拠はないし、そもそも、前記説示のとおり、入院の必要性についての判断は、管理者自らがその責任において行うべきものであるから、その判断をベテランの精神科医であるにしても管理者以外の勤務医に委ねることは許されないものと言わなければならず、また、入院の必要性についての判断は、同意入院の性質上、入院措置を行う前になされるべきであるから、いずれにしても控訴人の右主張は理由がない。」を、同裏二行目の「注意義務を怠り、」の次に「被控訴人を同意入院の手続きによって入院させるにつき、入院の必要性についての判断を全く行わないまま」をそれぞれ加え、同九行目の「入院処置」を「入院措置」と改める。

5  同一三枚目表八行目の「甲五一」の次に「、医師Y作成の意見書」を加え、同裏五行目の「被告ら」を「控訴人」と、同七行目の「同被告」を「乙川」とそれぞれ改める。

6  同一四枚目表初行の「一五〇人」を「二〇〇人」と、同一〇行目の「被告ら」を「控訴人」と、同裏一〇行目の「同被告」を「乙川」とそれぞれ改める。

7  同一五枚目表四行目から五行目にかけて、同六行目から七行目にかけて、同一一行目、同裏一一行目の各「同被告」をいずれも「乙川」と、同七行目の「原告は」から同八行目の「原告は、」までを「被控訴人は、靴を入れたことを除いてこれを自認するところ(但し、スリッパはビニール袋に入れたとする。)、」とそれぞれ改める。

8  同一六枚目裏七行目の次に、行を改めて「なお、控訴人は、N医師は乙川からの事情聴取に際してTを同席させているから、他の方法で情報の真偽を確認する必要はない旨主張するが、同人がしばしば被控訴人宅を訪れて、乙川とは親しい間柄にあったことは窺えるものの(丙五の2、乙川第一回)、前記①ないし⑭の事実はいずれも被控訴人の家庭内ないし会社での個人的な出来事であって、同人を事情聴取に立ち合わせたことにより事実の真偽の検証ができたとは到底考えられないところであるから、右主張は採用できない。」を加え、同八行目から同一七枚目表初行までを「6 更に、証拠(丙一の7、五五の2、原審証人N、当審証人O2)によれば、N医師の後任の主治医O医師は、被控訴人は妄想型の精神分裂病である旨、本件入院中に被控訴人を診察したO2医師は、被控訴人は精神分裂病で寛解状態に向かいつつある状態である旨それぞれ診断しているが、入院診療録には、「自閉的で緘黙的」「表情がやや硬く冷たい」などの記載はあるものの、他に、妄想、幻覚など分裂病の特徴的症状と思われる記載がないことが認められ、他方、証拠(甲五一、原審での鑑定、原審での控訴人)によれば、鑑定人A医師は、昭和六三年一一月一八日から平成二年一二月一五日までの間、合計八回にわたって被控訴人を外来で診察し、その際の所見では漠然とした被害念慮はあるものの、幻覚は存在せず、この間に実施した心理テストで異常は認められたものの、典型的な分裂病の所見ではなく、また、精神生理学的検査結果からも分裂病の所見はなく、この間会社を継続的に経営し、分裂病の治療薬は服用せずに現在の状態を維持できていることに鑑みると、右期間中被控訴人が精神分裂病であったとは断定できず、同医師が聴取した関係人の供述も併せ考慮すると、鑑定時点では精神分裂病ではないと考えるのが妥当である旨、過去ないし本件入院措置を受けた当時については、乙川の供述が真実であったとすれば精神分裂病であった可能性が高く、精神分裂病と紛らわしい性格的な偏りであった可能性は少ないが、乙川の供述を除外すると、いずれの可能性も考えられると判断していること(但し、乙川がN医師に対して供述した前記①ないし⑭の事実については、前記認定のとおりその評価の仕方に疑問の余地がある上、⑦のように具体的な裏付けがないものがあったり、誇張されたり不正確な部分があるなどその正確性に疑問が残るなどの問題点が認められるし、乙川が原審で供述するその余の被控訴人の奇異な言動についても、被控訴人の原審での供述等に照らすと、やや不正確かつ誇張されたのではないかと思われる部分があることに鑑みると、乙川の供述が真実であることを前提とする結論部分を直ちに採用することには問題があると言うべきである。)、」と改める。

9  同一七枚目表一三行目の「被告病院」を「控訴人」と改める。

10  同一八枚目表六行目の「被告」を「乙川」と改める。

11  同一九枚目表初行の「休業損害について」の次に「(請求額一〇五〇万円)」を加え、同四行目の「一二、一三」を「一二ないし一四」と改め、同裏二行目の「慰謝料について」の次に「(請求額三〇〇〇万円)」を加え、同一一行目から同二〇枚目裏末行までを削る。

四  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官足立昭二 裁判官有吉一郎 裁判官奥田正昭)

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